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「ちゃんと伝えたはずなのに、なぜか動いてもらえない」「同じことを何度も説明しているのに、毎回違うアウトプットが返ってくる」——そんな経験に、心当たりはありませんか。

はじめまして、組織コンサルタントの田中りえです。私はかつて大手メーカーの人事部に15年間在籍し、その後フリーランスとして企業研修や組織開発のコンサルティングを行っています。これまで6,000名以上のビジネスパーソンと向き合ってきた現場で、私はずっとある問いを持ち続けていました。それは「指示がうまくできる人と、できない人の間には、いったい何の違いがあるのだろうか」という問いです。

経験年数でも、地位でも、知識量でも、実はないのです。答えはもっとシンプルで、たった1つの「思考の向き」の違いにありました。

この記事では、現場で繰り返し検証してきたその差を、具体例や実践テクニックを交えてお伝えします。「指示が通らない」「チームが動かない」と感じているすべての方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。

「指示」は上司と部下だけの話ではない

まず最初に、「指示」という言葉への誤解を解いておきたいと思います。多くの方が「指示=上司が部下に命令するもの」というイメージを持っています。しかし現実の職場では、指示はあらゆる方向に飛び交っています。

実際に私が研修の場でよくお伝えするのですが、私たちは毎日、数えきれないほどの「指示」を出しています。たとえば次のような場面です。

  • 同僚に「この資料を明日の会議までにまとめておいてほしい」とお願いする
  • 上司に「この件の判断をいただきたいのですが」と打診する
  • 取引先に「見積もりを木曜までにいただけますか」と依頼する
  • アルバイトスタッフに「接客の流れをこう変えてほしい」と伝える

このように、立場に関係なく、人を動かそうとするコミュニケーションはすべて「指示」の一形態です。鶴野充茂氏が著書『上手に「指示できる人」と「できない人」の習慣』(明日香出版社)で述べているように、「醤油とって」という一言ですら、立派な指示なのです。つまり、指示力は全ビジネスパーソンに関わるスキルです。

「指示力」が職場の成果を左右する

株式会社リクルートマネジメントソリューションズによると、指示出しが上手な人は相手の力量を把握したうえで内容や難易度を調整し、モチベーションが上がるような伝え方をしているといいます。一方、指示出しが下手な人には「目的や背景を伝えない」「抽象的な言葉しか使わない」「一度に大量の指示を出す」といった共通パターンがあります。

この差が積み重なると、チームの生産性や職場の雰囲気に直接影響が出ます。指示を受けた側が「また意図と違う仕事をしてしまった」「毎回やり直しが発生する」と感じ続ければ、やる気を失っていくのは当然のことです。

たった1つの思考の差——「自分視点」か「相手視点」か

6,000名以上のビジネスパーソンと関わってきた経験の中で、私が繰り返し確認してきた事実があります。それは、指示できる人と指示できない人の間にある差は、能力でも経験でもなく、思考の「向き」が自分か相手かの違いだということです。

指示できない人は、「自分が何を伝えたいか」を起点に話します。指示できる人は、「相手がどうすれば動けるか」を起点に話します。この一点の違いが、すべてを決めるといっても過言ではありません。

「自分視点」で指示する人に起きていること

自分視点の指示とはどういうものか、具体的な場面で見てみましょう。

たとえば、部下に資料作成を依頼する場面です。

「例のプロジェクトの資料、いい感じにまとめておいて。来週の会議に使うから」

この指示を出した側は「伝えた」と思っています。しかし受け取った側には疑問が山積します。「例の」プロジェクトとはどのプロジェクトのことか。「いい感じ」とはどんな状態か。「来週の会議」はいつか。資料の形式は何か。分量はどの程度か。

このような曖昧な指示は、相手の解釈に全面的に委ねてしまいます。そして結果が自分のイメージと違えば「なんでこうなったの?」となる。これは、指示を出した本人が「相手がどんな情報を必要としているか」を考えていないことが原因です。

「相手視点」で指示できる人が無意識にやっていること

では、相手視点で指示できる人はどうアプローチするでしょうか。同じ状況なら、こんな伝え方になります。

「来週月曜の10時から第二会議室で行う〇〇プロジェクトの進捗会議で使う資料をお願いしたいのですが、PowerPoint3〜5枚で、現状の課題と来月の対応策を整理する形で、今週金曜の正午までに共有フォルダにアップしてもらえますか」

これは「細かすぎる」と感じるかもしれませんが、最初にこれだけ明確に伝えることで、後の修正やすれ違いがほぼゼロになります。

ログミーBusiness上での専門家の解説でも、「説明のうまい人は常に『誰に、どのような状態になってほしいのか』を起点に思考を組み立てている」と述べられています。指示の本質は「自分が情報を発した」ことではなく、「相手が動ける状態になった」ことにあるのです。

指示できない人が無意識にやっている6つのパターン

現場でよく見かける「指示できない人」のパターンを整理しました。自分に当てはまるものがないか、確認してみてください。

パターン具体例相手に起きること
目的・背景を伝えない「これやっといて」なぜやるのかわからず、優先度判断できない
抽象的な言葉で済ませる「いい感じに」「適当に」解釈がバラバラになり、やり直しが発生する
一度に大量の指示を出す「あとAもBもCも頼む」記憶しきれず、抜け漏れが生じる
期限を曖昧にする「なるはやで」「適当なときに」緊急度が伝わらず、後回しにされる
相手のスキルを考慮しない経験のない人に専門的な業務を丸投げ何から手をつければいいかわからない
進捗確認をしない「任せたから」と放置する方向性のズレに気づくのが遅れる

これらの共通点は、すべて「自分が言いたいことを言った」で思考が止まっていることです。相手がどう受け取るか、どう動けるかへの想像力が欠けています。

相手を動かす指示の4つの実践テクニック

「相手視点で考える」とわかっていても、具体的にどうすればよいか迷う方は多いです。ここでは現場で効果を実感している4つのテクニックをご紹介します。

テクニック① WHAT・WHY・HOWを必ずセットにする

良い指示には3つの要素が必ず含まれています。

  • WHAT(何を):具体的に何をしてほしいのか
  • WHY(なぜ):その指示の目的・背景は何か
  • HOW(どのように):進め方のポイントや注意事項

「なぜ」を伝えるかどうかが、特に大きな差を生みます。指示の目的がわかれば、相手は状況に応じて柔軟に動けます。逆に「なぜ」がなければ、想定外の事態が起きたとき思考停止してしまいます。

指示の例文テンプレート

「〇〇の件でお願いがあります。目的は△△のためです(WHY)。具体的には□□を××の形でまとめてほしいのですが(WHAT)、◇◇の点に注意しながら進めてもらえると助かります(HOW)。期限は〇日〇時です」

このテンプレートを使うだけで、指示のクオリティは劇的に変わります。

テクニック② 相手のスキルレベルに合わせた言葉を選ぶ

インソース社のキャリア教育に関する資料でも指摘されているように、「こう言えばだいたい伝わるはず」という思い込みは、一方通行のコミュニケーションを生みます。同じ言葉でも、受け手の経験値によって理解は大きく異なります。

入社したばかりのスタッフに「前回と同じ感じで進めて」は伝わりません。一方、ベテランに対して一から手順を説明しすぎると「信頼されていないのか」と感じさせることもあります。相手の経験やスキルを常に意識することが大切です。

具体的には、新人や経験の浅い相手には5W1Hをすべて明示し、経験豊富な相手には目的と期待する成果のみ伝えて進め方は委ねる、というメリハリが効果的です。

テクニック③ 数字と固有名詞で「曖昧さゼロ」を目指す

指示で多用しがちな次の言葉は、聞いた人によって解釈が変わります。

  • 「早めに」→ 今日?今週中?来週?
  • 「たくさん」→ 10個?100個?
  • 「きちんと確認して」→ どの範囲を?どこまで確認すれば十分?
  • 「例の件」→ どの件?

これらを数字と固有名詞に置き換えるだけで、ほとんどの曖昧さは解消されます。

  • ✗「早めに提出して」→ ✓「今週金曜の午前中までに提出して」
  • ✗「たくさん候補を出して」→ ✓「候補を10案出して」
  • ✗「例の件をまとめて」→ ✓「〇〇プロジェクトの課題一覧をまとめて」

テクニック④ 指示後に「理解の確認」を必ず行う

指示を出して終わりにしないことも重要です。「わかりましたか?」と聞くと「はい」という返事が返ってきても、実際には理解していないケースが多くあります。

より効果的な確認方法は、相手に指示内容を自分の言葉で言い返してもらうことです。

「念のため確認ですが、今お伝えした内容を一度整理してもらえますか?」

これだけで、認識のズレを事前に発見できます。指示側は「伝えた」、受け取り側は「聞いた」という一方通行を双方向に変えることが、指示力向上の最短ルートです。

現場ですぐ使える!指示の「言葉」比較表

指示できる人とできない人では、日常的に使う言葉も変わってきます。

シーン指示できない人の言葉指示できる人の言葉
進捗確認「まだできないの?」「どこまで進んでますか?」
理解確認「何がわからないの?」「何がわかりましたか?」
困りごとの把握「なぜやらないの?」「何かあったの?」
次のアクション「なんとかして」「とりあえず〇〇から始めましょうか」
期限の伝え方「いつでもいいから」「来週月曜の昼までにお願いします」
タスクの依頼「全部できたら見せて」「半分できたら確認させてください」

言葉一つひとつは些細な違いに見えますが、これが積み重なると、相手のモチベーションや行動速度に大きな差が出ます。指示が通らないと感じたら、まず自分が使っている言葉を見直すところから始めてみてください。

「相手視点」を身につける思考トレーニング

「相手視点で考える」というのは、性格の問題でも才能の問題でもありません。習慣化できるスキルです。日常的に次の3つを意識するだけで、思考の向きが徐々に変わってきます。

指示の前に「相手に必要な情報」を書き出す

指示を出す前に、30秒だけ立ち止まって次の問いに答えてみてください。

  • 相手はこのタスクを初めてやるか、経験があるか
  • 期限はいつか(数字で言えるか)
  • 目的・背景を伝えたか
  • 相手が迷いそうなポイントはあるか
  • 完成イメージを共有できているか

この5問に答えられた状態で指示を出すと、認識のズレはほぼ起きません。

「伝えた」ではなく「伝わった」を目標にする

多くの人は「伝えた」ことに満足してしまいます。しかし指示の目標は「伝えること」ではなく「相手が動ける状態を作ること」です。

指示後に相手がすぐ動き出せているか。途中で迷った様子はないか。仕上がりが自分のイメージ通りか。これらを観察する習慣をつけると、自分の指示のどこに課題があるかが見えてきます。

「言葉の定義」を共有する習慣をつける

「早めに」「しっかり」「ちゃんと」——これらの言葉の意味は人によって大きく異なります。チームでよく使う言葉の意味を事前に共有しておくことで、指示のズレを構造的に防ぐことができます。

たとえばチームで「優先度高=当日中に着手、優先度中=今週中に着手、優先度低=来週中に対応」という基準をあらかじめ決めておくだけで、指示にかかる時間と認識のズレの両方を減らすことができます。

まとめ

指示できる人とできない人の違いは、能力や経験年数ではありません。たった1つ、「思考が自分に向いているか、相手に向いているか」の差です。

「自分が何を言いたいか」を起点にしている限り、どれだけ言葉を尽くしても指示は通りません。「相手がどうすれば動けるか」を起点にした瞬間、言葉の選び方も伝え方も自然と変わってきます。

改善のポイントを振り返ると、こういうことになります。

  • WHAT・WHY・HOWを必ずセットにして伝える
  • 相手のスキルレベルに合わせた言葉を選ぶ
  • 数字と固有名詞で曖昧さをなくす
  • 指示後に「理解の確認」を必ず行う
  • 「伝えた」ではなく「伝わった」を目標にする

これらは一朝一夕で身につくものではありませんが、日々の指示を少しずつ意識的に変えるだけで、現場の反応は確実に変わっていきます。

「あれ、最近うまく動いてくれるようになったな」と感じる日が、きっと来るはずです。焦らず、一つひとつの指示を丁寧に積み重ねていきましょう。今日の一言が、チームを動かす力に変わっていきます。

最終更新日 2026年3月2日 by carret