日次アーカイブ: 2026年10月23日

「また転校させることになって、この子に悪いことをしている気がする」。
転勤の多いご家庭や、家庭の事情で引っ越しが続いているご家庭から、こうした声を聞くことがあります。

はじめまして、フリーライターの三浦千景です。
大学で社会福祉を学んだあと、児童養護施設で児童指導員として8年働きました。
いまは群馬を拠点に、社会的養護や子どもの貧困をテーマに取材を続けています。

施設には、入所をきっかけに学校が変わった子がたくさんいました。
一時保護所を経て施設に来る子もいれば、施設から里親家庭へ移っていく子もいます。
転校のたびに子どもの表情がどう変わるのかを、すぐそばで見てきました。

この記事では、転校の多い子の心で何が起きているのかを、研究や公的なデータと、現場で見てきたことの両方から整理します。
「かわいそうかどうか」を一言で決めるのではなく、周りの大人が気づけることと、できることをお伝えできればと思います。

転校が多い子の心で起きていること

最初の数か月は、友達や先生との関係がいちばん揺れる

転校直後の子どもの心の動きを追った国内の研究があります。
小泉令三さんが1986年に『教育心理学研究』で発表した転校児童の新しい学校への適応過程です。

この研究では、小学3〜6年生の転入児童を、転入後3か月のあいだに4回調べています。
比べる相手は、前の年に転入してきた子と、もともと在籍していた子です。

転入直後の2回の調査では、級友や先生とのやりとりの評価が、比べた子たちより低くなっていました。
校舎や設備の受け止め方も、3回目の調査まで低いままでした。
一方で、学級に受け入れられている感覚や学習への関心には、差が見られなかったそうです。

クラスが冷たいわけではなくても、本人の中では「まだ自分の場所になっていない」感覚がしばらく続く、ということだと思います。
施設で見てきた子たちも、転校して最初の学期は学校から帰ると口数が減り、夕食が済むとすぐ部屋に戻ってしまうことがよくありました。

「どうせまた離れる」と、人との距離を取りはじめる

転校をくり返すうちに、人間関係に深入りしなくなる子がいます。

ITmediaのねとらぼが、親の転勤で転校を経験した読者の声を集めた記事があります。
その中に「どうせ別れる時がくるからと友達付き合いを長続きさせようと努力したことがない」という回答がありました。

施設でも、同じような言葉を何度も聞きました。
「仲良くなっても、どうせいなくなるし」。
新しいクラスの話を振ったとき、小学校高学年の子がさらっと口にしたひと言です。

これは、冷たい性格になったということではありません。
別れのつらさを何度も味わったから、最初から期待しないことで自分を守っているのだと思います。

平気そうに見える子ほど、無理をしていることがある

転校先ですぐに友達ができて、明るくふるまっている子もいます。
本当になじんでいる場合も多いのですが、周りに合わせることで居場所をつくろうとしている場合もあります。

現場では、学校では元気なのに、施設に戻ると小さなことで泣き出したり、年下の子にきつく当たったりする子がいました。
外で張りつめていた分が、安心できる場所に帰ってきてから出てくるのです。

「うちの子は大丈夫そう」と思えるときこそ、家でのふとした様子に目を向けてみてください。

年齢と回数によって、負担の重さは変わる

思春期の前半から半ばに重なる転居は気をつけたい

海外には、子ども時代の転居とその後の人生との関係を、大規模に調べた研究があります。

デンマークで1971〜1997年に生まれた約148万人を追ったWebbらの研究(2016年)です。
0〜14歳のときの転居と、大人になってからの自殺企図や暴力犯罪、精神疾患、物質乱用などとの関係を調べています。

調べたすべての項目でリスクの上昇が見られ、転居した年齢が上がるほど関係は強くなっていました。
とくに、思春期の前半から半ばに1年で何度も転居した場合に、リスクがはっきり高まっていたそうです。

ただし、これは「転居が原因で問題が起きる」と証明した研究ではありません。
登録データをもとにした観察研究で、転居の背景にある家庭の事情が影響している可能性も残ります。
研究チームは、転居した10代の子とその家族に、より注意を払うよう呼びかけています。

転勤による転校と、暮らしが揺らぐなかでの転校は分けて考える

研究結果を読むときに気をつけたいのが、転校の背景です。
同じ「転校」でも、子どもが失うものの大きさはかなり違います。

転校の背景子どもが抱えやすいもの大人が意識したいこと
親の転勤友達との別れ、言葉や校風の違い早めに伝え、準備とお別れの時間をとる
離婚・再婚など家族の変化家族の変化と学校の変化が同時に来る学校の変化を小さくできないか考える
施設入所・里親家庭への移動家族・友達・先生をいっぺんに失う前の学校や人とのつながりを残す

家族がそろったまま引っ越す転勤と、家族の関係そのものが揺らぐなかでの転校は、同じには扱えません。
転勤族の親御さんが海外の研究を読んで、必要以上に自分を責めることはないと私は思っています。
一方で、家庭の変化と転校が重なっている子には、もう一段ていねいな見守りが必要だと感じてきました。

施設で暮らす子供にとっての転校

こども家庭庁の児童養護施設入所児童等調査(令和5年2月1日現在)によると、里親に委託されている子は6,057人、児童養護施設で暮らす子は23,043人でした。

里親に委託された子がどこから来たのかを見ると、「家庭から」は43.9%です。
「乳児院から」が29.8%、「児童養護施設から」が11.9%で、別の場所での暮らしを経て里親家庭に来た子が少なくありません。
暮らす場所が変われば、通う学校も変わることがよくあります。

NPO法人3keysの代表理事・森山誉恵さんは、2015年に現代ビジネスへ寄せた記事で、子どもが保護されたあとの流れについて書いています。
空きのある施設へ早く入所させる手続きの結果、「子どもたちのほとんどは、もともと通っていた学校とは離れた場所で暮らすことになり転校が強いられます」とのことです。

同じ調査では、児童養護施設で暮らす中学3年生以上の子に「信頼できる友達がいますか」と尋ねています。
「いる」と答えたのは74.9%で、「いない」が7.7%、「わからない」が16.1%でした。

4人に3人が「いる」と答えていることには、ほっとします。
それでも私は、「わからない」と答えた子たちのことを考えてしまいます。
何度も環境が変わると、誰を信頼していいのか分からなくなる子もいるからです。

転校続きの子供時代を、のちに支援の力に変えた人もいる

美容家のたかの友梨さんは、週刊女性PRIMEのインタビューで、幼いころに養子に出され、養母の離婚や再婚が重なるなかで親戚の家を転々としたと語っています。
本人の言葉では「小学校だけで6回も転校した」そうです。

その生い立ちを背景に、1989年から群馬県前橋市の児童養護施設「鐘の鳴る丘 少年の家」への支援が続けられています。
転校続きだった子供時代のことや、いまの支援活動については、たかの友梨さんの子供時代と児童支援の歩みをまとめた記事で詳しく読めます。

つらい経験をした人が、みんなそれを力に変えられるわけではありません。
ただ、そばに支えてくれる大人がいたかどうかで、その後は大きく変わると、現場にいて感じてきました。

見逃したくないストレスのサイン

転校してしばらくのあいだ、子どもは言葉にできない負担を体や行動で表すことがあります。
施設で見てきた様子を、3つに分けて整理しました。

サインの出方よく見られた様子
体朝になるとお腹や頭が痛くなる、食欲が落ちる、寝つきが悪くなる
気持ちイライラしやすい、急に泣く、何をしても楽しくなさそう
行動朝の支度が進まない、前の学校の話ばかりする(または一切しない)、年下のきょうだいに当たる、甘えが強くなる

一つ二つ当てはまっても、すぐに心配しすぎる必要はありません。
新しい環境に慣れようとしているときには、大人でも出る反応です。

気にかけたいのは、同じ様子が長く続いているときや、だんだん強くなっているときです。
そのときは担任の先生やスクールカウンセラー、養護教諭に早めに相談してみてください。

親や周りの大人ができること

転校が決まったときにしておきたいこと

  • 決まったら早めに伝え、子どもが気持ちを話せる時間をとる
  • 仲の良い友達にお別れを言える機会をつくる
  • 前の学校の友達と連絡を取れる方法を残しておく
  • 転校先の先生に、子どもの好きなことや得意なことを伝えておく

施設では、措置が変わって別の場所へ移る子に、職員や子どもたちで寄せ書きを渡すことがありました。
前の場所で大切にされていた証拠が手元に残ると、新しい場所でも少し踏ん張れるようです。

転校したあとの声かけ

転校したばかりの子に「今日どうだった?」と聞いても、「別に」で終わることが多いものです。
答えやすい小さな質問から始めるのがおすすめです。

  • 「給食、何が出た?」
  • 「新しいクラスで、名前を覚えた子はいる?」
  • 「前の学校の〇〇ちゃんに、手紙書いてみる?」
  • 「疲れたね。今日は早めに寝ちゃおうか」

「前の学校のほうがよかった」と言われたら、否定せずに「そう思うんだね」と受け止めてください。
「すぐ慣れるよ」と急かすより、慣れるまでの時間を一緒に待つ姿勢のほうが、子どもは安心します。

子ども本人が相談できる窓口

親には言いにくい気持ちを抱えている子もいます。
家族以外にも話せる場所があると、子どもにとっての逃げ道になります。

文部科学省の24時間子供SOSダイヤルは、0120-078310(なやみいおう)に電話すると、夜間や休日も含めて24時間相談できます。
こうした窓口があることを、ふだんの会話の中で子どもに伝えておくのも一つの方法です。

転校の経験は、あとから意味が変わることもある

転校がつらい経験のまま残るとは限りません。

広島大学大学院心理臨床教育研究センターの紀要に、下田千尋さんらが2014年に発表した研究があります。
大学生166人のうち転校を経験した66人に、過去の転校をどう受け止めているかを自由に書いてもらった調査です。

多くの人が、転校に前向きな意味を見いだしていました。
性格や人との付き合い方への影響、ものの見方の変化、進路を考えるきっかけなどが挙げられています。
つらかった経験を、あとから肯定的なものとして捉え直した人もいたそうです。

子どもの頃は嫌だった転校が、大人になって振り返ると違う意味を持つことがあります。
その土台になるのは、つらい時期に「ひとりで抱え込まなくてよかった」という経験だと私は考えています。

まとめ

転校の多い子の心で起きやすいことと、大人ができることを振り返ります。

  • 転校して最初の数か月は、友達や先生との関係がいちばん揺れやすい
  • 「どうせ離れる」と距離を取る子や、平気そうに見えて無理をしている子もいる
  • 思春期に転居が重なるときや、家族の変化と転校が同時に来るときは、とくにていねいに見守る
  • 施設で暮らす子は、家族と学校をいっぺんに失う形で転校することがある
  • サインに気づき、話を聞き、前のつながりを残すことが、子どもの支えになる

転校そのものを避けられない家庭は多いと思います。
大事なのは、転校をなくすことより、転校した子をひとりにしないことです。

新しい学校での毎日が少しずつ「自分の場所」になっていくまで、焦らずそばにいてあげてください。

最終更新日 2026年10月27日 by carret